学術変革領域研究(A)の公募研究の内容

 

2021-03-10

1.領域の概要

外界の影響により動物の体内環境は刻々と変化し、脳もその影響下にある。従来の脳科学は感覚器・運動器を介しての神経回路と外界との相互作用を重視してきた。一方で、代謝・循環・免疫などの体内環境と脳の相互作用の中心となるのは、血液脳関門を制御するアストログリアや末梢炎症に敏感に反応するミクログリア等のグリア細胞である。従来、グリア細胞は単純に神経細胞を支持する細胞として捉えられてきたが、グリア細胞はむしろ神経回路と生体の内部環境の間に介在するインターフェースであり、両者の双方向性の相互作用を仲介する中核として機能している。脳実質内の神経回路に対して体内環境の情報を表現するのはグリア細胞であり、末梢臓器・組織に対しては逆に脳内環境の情報を伝達する役割を担っている。このようなグリア細胞が表現する情報を読み出すこと(デコーディング)ができれば、脳-身体連関の包括的な理解が可能となる。

本研究領域では従来の神経活動計測とは全く異なる計測手法や体内環境の専門家を呼び込み、グリア機能の包括的な読み出しを実現する。このようなアプローチを活用して領域全体として次の三つの目標を設定し、その達成を目指す。

  1. 神経回路を包含する脳全体をシステムとして捉え、脳の情報処理を神経回路に加えて代謝・循環・免疫などの時空間的な動態と統合して理解する。
  2. 脳を生体システムの一要素として捉え、外部環境に対応した生体の内部環境の変化、さらにその結果として起こる脳と内部環境の間の多様な機能制御の実体を解明する。
  3. 上記二項目において中心的な役割を果たすグリア細胞について、その状態・機能・細胞間シグナル伝達を包括的に読み出す技術(デコーディング技術)を開発し、脳と身体の間での生体情報の統合の理解を目指す。

このような試みにより、グリア細胞の状態を読み出すことで脳-身体間の機能連関を解明し、従来の脳科学の枠に収まらない学問領域の形成を実現したい。

2.公募する内容、公募研究への期待等

以下A01からA03 の三つの研究項目について公募を行う。計画研究にないユニークな視点がある一方で、計画研究と連携することで相乗効果が生まれる内容であること、また、研究領域全体の目指すゴールと方向性が合致する研究であることを重視する。若手研究者からの研究提案を期待する。グリア機能は脳-身体連関の異常にも密接に関与することから、病態への基礎的なアプローチに関する提案も期待する。汎用可能なデータベースの構築や数理研究に関する提案にも期待する。300万円を上限とする課題に加えて、新規技術開発、データベース構築、数理研究を含む500万円を上限とする課題も募集する。

研究項目A01では、脳内に存在するグリア・神経ネットワークとその担う機能の実体を明らかにする研究を公募する。計画研究では、神経回路イメージングとグリア機能解析の統合技術、グリアのシグナル伝達を可視化するプローブ、グリア-神経細胞-血管の間での機能連携などの研究が実施されるので、これらの実験技術との連携が可能な研究提案を重視する。さらに、脳内からのグリア情報のデコーディングを目指した数理研究やデータサイエンスを活用した提案も対象とする。 研究項目A02では、脳-身体連関の制御について、特に免疫・炎症関連シグナルを中心とした研究が計画研究では実施されるので、これらの研究との連携が可能な研究提案を募集する。末梢組織の修復過程や免疫反応の専門家の参加を期待する。脳と末梢臓器・組織の機能連関を解析する新しい実験系・モデル動物の提案も対象とする。

研究項目A03では、革新的なグリアの包括的操作・解析技術を計画研究が担うことから、これらの技術との連携が可能な内容であり、かつ脳-身体連関を包括的に解析するという目標に合致した提案を募集する。計画研究ではグリア細胞の移植技術、全脳全細胞解析技術、エクソソームの網羅的解析技術などの開発を推進するので、これらの技術開発との連携や相補的な発展が期待できる提案を対象とする。包括的なグリア情報の取得とそのデコーディングを実現するにはバイオインフォマティクスの活用が必須であり、情報科学的アプローチを含む提案にも期待したい。

3.公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数

研究項目 応募上限額
(単年度当たり)
採択目安件数
A01グリア・神経ネットワークの統合による脳機能発現 500万円
300万円
8件
10件
A02グリアによる脳 -身体連関の制御
A03グリアによる脳 -身体連関制御の包括的操作・解析