哺乳動物の進化の過程で大脳は肥大化し、その表面には明瞭なシワ(脳回)を獲得するなどその構造は複雑化してきた。この進化の過程で、神経細胞に加えてグリア細胞の数は著しく増加するとともに、その形態と機能も発達してきた。例えば、ヒトのアストロサイトを移植したマウスでは記憶・学習能力が向上する。さらに、マウスに比べてヒトでは白質アストロサイトのサイズが大きくなっているとともに、その形態が多様化している。このように、進化における白質アストロサイトの数の増加と形態の多様化が高次脳機能の発達に重要であったと考えられる。従って、皺脳動物(脳回など発達した脳構造を持つ動物)でのアストロサイト研究は重要であるが、解析技術が確立されていなかったこともありその研究は遅れている。重要なことに申請者らは最近、皺脳動物であるフェレットの大脳皮質においてアストロサイト選択的かつ時空間的な遺伝子発現システムを確立した。そこで本研究課題ではこの独自技術を用いて、白質アストロサイトの肥大化と形態の多様化の分子機構を明らかにする。さらに、進化におけるアストロサイトの変化の機能的意義を解明することにより、複雑化した脳におけるアストロサイトのデコーディングを目指す。
1. Shinmyo Y. et al., Localized astrogenesis regulates gyrification of the cerebral cortex. Science Advances, 8(10):eabi5209, 2022.
2. Shinmyo Y. et al., Folding of the cerebral cortex requires Cdk5 in upper-layer neurons in gyrencephalic mammals. Cell Reports, 20(9), 2131-2143, 2017.
3. Shinmyo Y. et al., CRISPR/Cas9-mediated gene knockout in the mouse brain using in utero electroporation. Scientific Reports, 6, 20611, 2016.
4. Shinmyo Y. et al., Draxin from neocortical neurons controls the guidance of thalamocortical projections into the neocortex. Nature Communications, 6, 10232, 2015.
5. Islam S. M., Shinmyo Y. et al., Draxin, a repulsive guidance protein for spinal cord and forebrain commissures. Science, 323, 388-393, 2009.