研究内容

脳は、神経細胞とグリア細胞同士の相互作用による複雑なネットワークによって合理的かつ多彩な脳機能を生み出すことができる臓器である。他臓器と異なり、脳は各所に異なる機能を有しており、脳内のネットワークを生み出すグリア・神経細胞の種類は多岐にわたる。脳はグリア細胞と神経細胞によって恒常性が維持されており、脳組織が損傷した場合には、いち早くグリア細胞が応答して脳組織の修復を担う。これらの修復性グリア、神経細胞の修復機能を促進・維持させるために、修復に関わった脳細胞の運命を解明し、修復性グリアがどのように脳損傷後の神経回路再構築に寄与し続けるのかを明らかにする必要がある。最近の神経科学的な解析手法の進歩によって、正常脳における神経回路の機能メカニズムは続々と明らかにされている。しかし、脳卒中や外傷、神経変性疾患などにより脳が損傷した場合に、脳機能回復のため神経回路が再編される細胞・分子メカニズムはほとんど未解明のままである。我々はこれまでに脳組織の虚血壊死（脳梗塞）の際に、脳修復を担うグリア、神経細胞が存在することを見出し、その詳細な誘導・維持の分子メカニズムを解明した。本研究ではグリア細胞、神経細胞を脳から単離した一細胞・全細胞レベルの遺伝子発現解析と、神経回路再構築の解析を駆使することにより、修復性グリア、神経細胞による脳機能回復の維持に必要な細胞情報をデコードする。このような脳修復に関わる根本的な細胞機能の解明は、脳損傷後の機能回復を促進する治療開発のためにも大変有益な情報となる。