松田 隆志

国立大学法人 東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニット・特任助教
matsuda.t.ao@m.titech.ac.jp
A01
グリア・神経ネットワークの統合による脳機能発現

研究内容

高血圧の発症には、塩分の過剰摂取に加えて肥満やストレスなど様々な体内環境の変化が関わっており、共通して脳内において炎症反応が生じることが報告されている。近年、この脳内炎症が血圧上昇の原因である可能性が示唆されている。脳において感覚性脳室周囲器官(sCVOs)は血液-脳関門が欠損していながら神経細胞が存在している部位であり、体液中の液性因子をモニターしている場所として知られている。申請者はこれまでにsCVOsである脳弓下器官(SFO)や終板脈管器官(OVLT)を中心に、体液情報に応答して水分摂取および塩分摂取、血圧上昇を誘導するニューロンとその活動制御機構の研究を進めてきた。最近、申請者はsCVOsにミクログリアが常在しており、高血圧や肥満状態において炎症反応が起きていることを確認した。sCVOsを起点とする神経回路の活動が交感神経の活性化を介して血圧を上昇させていることを確認しているが、sCVOsの炎症反応がこの神経回路の活動にどのように影響しているのかは不明である。本研究では、sCVOsのミクログリアおよび神経細胞の活動を薬理学的手法および化学遺伝学的手法、in vivo イメージング法などを用いて制御・解析することによって、脳内におけるミクログリアの活性化による新たな血圧制御機構の解明を目指す。脳内炎症と血圧制御の間に因果関係が判明すれば、原因不明の神経性高血圧症の発症機序の解明およびその治療法の開発に繋がることが期待される。

研究概略図

代表業績

① Takashi Matsuda, Takeshi Y Hiyama, Fumio Niimura, Taiji Matsusaka, Akiyoshi Fukamizu, Kenta Kobayashi, Kazuto Kobayashi, Masaharu Noda. “Distinct neural mechanisms for the control of thirst and salt appetite in the subfornical organ” Nature Neuroscience. 20, 230–241, 2017.

② Kengo Nomura, Takeshi Y. Hiyama, Hiraki Sakuta, Takashi Matsuda, Chia-Hao Lin, Kenta Kobayashi, Kazuto Kobayashi, Tomoyuki Kuwaki, Kunihiko Takahashi, Shigeyuki Matsui, Masaharu Noda. “[Na+] Increases in Body Fluids Sensed by Central Nax Induce Sympathetically Mediated Blood Pressure Elevations via H+-Dependent Activation of ASIC1a” Neuron. 101, 60–75, 2019.

③ Hiraki Sakuta, Chia-Hao Lin, Takeshi Y. Hiyama, Takashi Matsuda, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Kenta Kobayashi, Masaharu Noda. “SLC9A4 in the organum vasculosum of the lamina terminalis is a [Na+] sensor for the control of water intake” Pflügers Archiv – European Journal of Physiology. 472, 609–624, 2020.

④ Takashi Matsuda, Takeshi Y Hiyama, Kenta Kobayashi, Kazuto Kobayashi, Masaharu Noda. “Distinct CCK-positive SFO neurons are involved in persistent or transient suppression of water intake” Nature Communications. 11. 5692, 2020.