毛内 拡

お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系・助教
monai.hiromu@ocha.ac.jp
A01
グリア・神経ネットワークの統合による脳機能発現

研究内容

人間とは何か。ヒトと動物は何が違うのか。その謎を解き明かす鍵は、脳にあると予想されているが、未だ統一的な見解は得られていない。従来、知性を担う脳の情報処理は、神経回路が複雑化することによるものと考えられてきた。一方、研究代表者は、脳の神経細胞以外の要素、特に脳の半分を占めるグリア細胞が、重要な働きをしている可能性を提案してきた。
グリア細胞の一種であるアストロサイトは、単にニューロンの支持細胞に過ぎないと考えられてきたが、脳の情報処理に積極的に関与しているという傍証がいくつも見つかってきている。アストロサイトは、進化的に複雑な脳を持つ生物ほど大脳皮質に占める割合が増加すること、ヒトアストロサイトはマウスと比べて大きく複雑な突起を持つこと、ヒトアストロサイトをマウスに移植することで記憶・学習の効率が良くなること等が報告されており、知性との関与が示唆されている。しかしながら、アストロサイトのどの要素が知性に関与しているかは明らかになっていない。
我々は、アストロサイトに固有の機能タンパク質をゲノムワイドに解析した結果、ヒト特異的な遺伝的変異を見つけ、正の自然選択を受けることを見出した。本研究では、当該のヒト特異的遺伝的変異を導入した遺伝子改変マウスを独自に作製し、生理機能の解析を試みる。ヒト特異的変異が脳機能に果たす役割について解析し、知性の進化の謎の解明に挑戦する。

研究概略図

代表業績

  • 毛内拡, 脳を司る「脳」, 講談社ブルーバックス, 2020年(第37回講談社科学出版賞受賞)
  • H. Monai, S. Koketsu, Y. Shinohara, T. Ueki, P. Kusk, NL. Hauglund, AJ. Samson, M. Nedergaard & H. Hirase, Adrenergic inhibition facilitates normalization of extracellular potassium after cortical spreading depolarization, Sci Rep., 11, 8150 (2021).
  • H. Monai*, X. Wang, K. Yahagi, N. Lou, H. Mestre, Q. Xu, Y. Abe, M. Yasui, Y. Iwai, M. Nedergaard, H. Hirase*, Adrenergic receptor antagonism induces neuroprotection and facilitates recovery from acute ischemic stroke, Proceedings of the National Academy of Sciences, 116 (22) 11010-11019 (2019)
  • H. Monai, M. Ohkura, M. Tanaka, Y. Oe, A. Konno, H. Hirai, K. Mikoshiba, S. Itohara, J. Nakai, Y. Iwai, and H. Hirase, Calcium imaging reveals glial involvement in transcranial direct current stimulation-induced plasticity in mouse brain., Nat. Commun. 7:11100 (2016)