学術変革領域研究(A)の公募研究の内容


1.領域の概要

外界の影響により動物の体内環境は刻々と変化し、脳もその影響下にある。従来の脳科学は感覚器・運動器を介しての神経回路と外界との相互作用を重視してきた。一方で、代謝・循環・免疫などの体内環境と脳の相互作用の中心となるのは、血液脳関門を制御するアストログリアや末梢炎症に敏感に反応するミクログリア等のグリア細胞である。従来、グリア細胞は単純に神経細胞を支持する細胞として捉えられてきたが、グリア細胞はむしろ神経回路と生体の内部環境の間に介在するインターフェースであり、両者の双方向性の相互作用を仲介する中核として機能している。脳実質内の神経回路に対して体内環境の情報を表現するのはグリア細胞であり、末梢臓器・組織に対しては逆に脳内環境の情報を伝達する役割を担っている。このようなグリア細胞が表現する情報を読み出すこと(デコーディング)ができれば、脳-身体連関の包括的な理解が可能となる。

本研究領域では従来の神経活動計測とは全く異なる計測手法や体内環境の専門家を呼び込み、グリア機能の包括的な読み出しを実現する。このようなアプローチを活用して領域全体として次の三つの目標を設定し、その達成を目指す。

  1. 神経回路を包含する脳全体をシステムとして捉え、脳の情報処理を神経回路に加えて代謝・循環・免疫などの時空間的な動態と統合して理解する。
  2. 脳を生体システムの一要素として捉え、外部環境に対応した生体の内部環境の変化、さらにその結果として起こる脳と内部環境の間の多様な機能制御の実体を解明する。
  3. 上記二項目において中心的な役割を果たすグリア細胞について、その状態・機能・細胞間シグナル伝達を包括的に読み出す技術(デコーディング技術)を開発し、脳と身体の間での生体情報の統合の理解を目指す。

このような試みにより、グリア細胞の状態を読み出すことで脳-身体間の機能連関を解明し、従来の脳科学の枠に収まらない学問領域の形成を実現したい。

2.公募する内容、公募研究への期待等

以下A01からA03 の三つの研究項目について公募を行う。計画研究にないユニークな視点がある一方で、計画研究と連携することで相乗効果が生まれる内容であること、また、研究領域全体の目指すゴールと方向性が合致する研究であることを重視する。若手研究者からの研究提案を期待する。グリア機能は脳-身体連関の異常にも密接に関与することから、病態への基礎的なアプローチに関する提案も期待する。汎用可能なデータベースの構築や数理研究に関する提案にも期待する。300万円を上限とする課題に加えて、新規技術開発、データベース構築、数理研究を含む500万円を上限とする課題も募集する。

研究項目A01では、脳内に存在するグリア・神経ネットワークとその担う機能の実体を明らかにする研究を公募する。計画研究では、神経回路イメージングとグリア機能解析の統合技術、グリアのシグナル伝達を可視化するプローブ、グリア-神経細胞-血管の間での機能連携などの研究が実施されるので、これらの実験技術との連携が可能な研究提案を重視する。さらに、脳内からのグリア情報のデコーディングを目指した数理研究やデータサイエンスを活用した提案も対象とする。
研究項目A02では、脳-身体連関の制御について、特に免疫・炎症関連シグナルを中心とした研究が計画研究では実施されるので、これらの研究との連携が可能な研究提案を募集する。末梢組織の修復過程や免疫反応の専門家の参加を期待する。脳と末梢臓器・組織の機能連関を解析する新しい実験系・モデル動物の提案も対象とする。

研究項目A03では、革新的なグリアの包括的操作・解析技術を計画研究が担うことから、これらの技術との連携が可能な内容であり、かつ脳-身体連関を包括的に解析するという目標に合致した提案を募集する。計画研究ではグリア細胞の移植技術、全脳全細胞解析技術、エクソソームの網羅的解析技術などの開発を推進するので、これらの技術開発との連携や相補的な発展が期待できる提案を対象とする。包括的なグリア情報の取得とそのデコーディングを実現するにはバイオインフォマティクスの活用が必須であり、情報科学的アプローチを含む提案にも期待したい。

3.公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数

研究項目 応募上限額
(単年度当たり)
採択目安件数
A01グリア・神経ネットワークの統合による脳機能発現 500万円
300万円
8件
10件
A02グリアによる脳 -身体連関の制御
A03グリアによる脳 -身体連関制御の包括的操作・解析

グリアデコードニュースレター Vol.1 『第1回公開シンポジウムに参加して』

山梨大学大学院 総合研究部
医学域 基礎医学系 薬理学講座・学部内准教授

篠崎 陽一

令和3年1月7日(木)に開催された学術変革領域(A)「グリアデコーディング」の第一回公開WEBシンポジウムに参加させて頂きました。ZOOMの最大人数である300名もの参加者からも本領域に対する関心の高さが伺えました。本学術変革領域はA01班「グリア・神経ネットワークの統合による脳機能発現」、A02班「グリアによる脳-身体連関の制御」、A03班「グリアによる脳-身体連関制御の包括的操作・解析」で構成され、領域代表である東京大学大学院医学系研究科の岡部繁男教授によるご挨拶・概要説明の後に計画班の各先生方より非常にエキサイティングな研究紹介が行われました。

私は博士課程からグリア研究の世界に入り、特にグリア細胞の異常がどのようにして神経変性疾患を誘導するかという点に興味を持っています。現在は加齢性視神経変性疾患である緑内障を対象に研究を行っています。緑内障は眼圧上昇という体内環境変化が発症リスクである事、早期からグリア細胞が変化する事が知られています。本領域の目的の1つ「体内環境に対するグリア細胞の脳内(網膜内)表現のデコーディング」は、まさに緑内障病態の解明に有効なアプローチだと感じています。また、グリア細胞の多様性は、脳の情報は蓄積しつつあるものの、網膜や視神経については非常に情報が乏しく、本領域で積極的に取り組んでいきたいと考えております。これまでも多くのグリア研究に関わる先生方にご教授頂いて来ましたが、本シンポジウムでご紹介された先生方の技術は、まさに従来の研究では解明できなかった数々の課題を解決できる革新的な方法論であると感銘を受けました。本領域で皆様と一緒に研究できる機会を頂きまして大変感謝しております。5年間、心躍るようなワクワクする研究を行いたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

令和2年度 第1回 公開ウェブシンポジウム

文部科学省科学研究費補助金・学術変革領域研究(A)
「グリアデコーディング:脳-身体連関を規定するグリア情報の読み出しと理解」
(略称:グリアデコード)
(令和2年~6年度:領域代表 岡部繁男 東京大学教授)

日時

令和3年(2021年)1月7日(木)14時~16時30分

WEB配信(zoom)

URL https://zoom.us/j/99673568647?pwd=MDBzZ3EreDMyNmNZSlhaOFQrTmpBZz09
ミーティングID 996 7356 8647
パスコード 289833

(※事前登録不要。13時30分頃より入室可能、先着300名のみ参加可能)

プログラム

14:00-14:20 領域代表ご挨拶・領域概要説明
14:20-14:30 研究紹介(A01 東京大学・岡部)
14:30-14:40 研究紹介(A01 慶応大学・田中)
14:40-14:50 研究紹介(A01 東京大学・小山)
14:50-15:00 研究紹介(A01 京都大学・松田)
15:00-15:10 研究紹介(A02 名古屋大学・和氣)
15:10-15:20 研究紹介(A02 九州大学・津田)
15:20-15:30 研究紹介(A02 大阪大学・石井)
15:30-15:40 研究紹介(A03 山梨大学・小泉)
15:40-15:50 研究紹介(A03 東京大学・史)
15:50-16:00 研究紹介(A03 東京工業大学・星野)
16:00-16:10 公募研究に関する説明(領域代表、他)
16:10-16:20 Q&A
16:20-16:25 閉会挨拶(学術調査官)
16:25-16:30 閉会挨拶(領域代表)

本学術変革領域に関する問合せ先

東京大学医学系研究科 岡部繁男
メール:okabe@m.u-tokyo.ac.jp

本シンポジウムに関する問合せ先

大阪大学医学系研究科 石井優
電話:06-6879-3880, 3881
メール:mishii@icb.med.osaka-u.ac.jp

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